第46回「卵の健康パワー」(平成24年9月30日)
あんなに暑かった夏もようやく秋に向かって走り出しましたね。 みなさん、夏の疲れが出ていませんか? 今回は、そんな疲れた身体をよみがえらせる「卵の健康パワー」と題して、皆さんと一緒に勉強したいと思います。
1.卵の食の歴史
鶏(ニワトリ)は、今からおよそ2500年前、中国から朝鮮半島を経由して、我が国へ伝えられてきたと言われています。日本最古の歴史書で有名なあの『古事記』(712年成立)には、「天の岩戸」に隠れた天照大神(あまてらすおおみかみ)の記述の中に、「長鳴鳥」(”ばがなきどり”と読み、鶏の一種)を集めて鳴かしたとあります。
また、雄略天皇(ゆうりゃくてんのう、470年頃)の頃には、鳥飼部(”とりかいべ”と読み、鳥を朝廷に献上したり飼育したりした)という養鶏専業の民が存在し、日本での養鶏が古くから行なわれていたことを伺い知ることができます。当時は、鶏肉は食用に、鶏卵は食膳や薬として利用されていました。1336年に仏教の肉食(にくじき)禁止により、「牛馬犬猿鶏の肉を喰う無かれ、犯すものあれば罰する」という布告が天武天皇により出されました。
また、1390年には「殺生禁断の令」が聖武天皇により出され、畜肉を食べる風習は徐々になくなっていきました。ただし、その後も鶏と兎(ウサギ)だけは次のような「こじつけ」をして食べ続けられていたようです。仏教の「肉食禁止」と言うことから、日本では仏教伝来以降、明治まで肉食がタブーとされていました。建前上は四足(4本足)の動物は口にしませんでしたが、鳥類(2本足)や魚類はタブーでなかったため、イノシシを「山クジラ」と呼び、ウサギを鳥類に見立てて1羽、2羽と数えて食べたという経緯があります。「ウサギは「ウ(鵜)とサギ(鷺)」と言う鳥がくっついているので、足が4本ある。だから、実際にはウサギ1羽が鳥2羽になる勘定だ。」といった具合や、四足のウサギは、ピョンピョン跳ねるところから「これは獣ではない、鳥なんだ」と言って食用にされていたそうです。そこで、数え方も鳥と同じように「1羽、2羽」と数えるようになったと言われています。
一般的に、民衆が卵を食べるようになったのは、江戸時代に入ってからのことです。そのころには、天秤棒の桶に卵を乗せて、「たまーご、たまーご」と言いながら、売り歩く「卵売り」も出てきましたが、まだまだ庶民には手の届かない特別な栄養食で、「高値の華」と言える存在だったようです。今では、どこの家庭の冷蔵庫にも常備されている「卵」も、そうなったのは昭和30年以降のことです。この時代は、食生活に対する日本人の意識が大きく転換し、栄養改善普及運動も盛んになり、食生活の欧米化が一気に促されて、数々の栄養素の中でもタンパク質やカルシウムが重要視され、肉・卵・牛乳・乳製品を積極的に食べることが推奨されました。その時に、「タンパク質が足りないよ」をキャッチフレーズに、特にもてはやされたのが卵でした。「巨人・大鵬・玉子焼き」と子供に人気があるものの代表として称されたり、風邪気味になると卵酒、疲れた時には栄養ドリンク代わりの生卵、遠足や行楽旅行には欠かせないゆで卵、温泉地名物の温泉卵等々、卵こそ健康の象徴、卵を食べていれば健康になれる、と珍重されていったのです。
2.卵に含まれるコレステロール
卵は、よく「コレステロールが高い」と言って敬遠する人がいますが、その真実はどうなんでしょうか? ここでは、その卵の隠された真実を解き明かしてみたいと思います。Mサイズの鶏卵(約60g)には、およそ252㎎のコレステロールが含まれています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によると、コレステロールの摂取目標量の上限は成人男性で1日当たり750㎎、成人女性で600㎎とされています。コレステロールは、肉や魚など他の食物にも含まれており、総摂取量の半分を鶏卵からとすると、日本での1日当たりの成人の鶏卵の摂取目標量上限は2個以下となります。ただし、高年齢などで高血圧や心臓病を抱えていらっしゃる方は、鶏卵(特に卵黄)の毎日の摂取は避けるべきとする考え方がありますので、主治医の先生とご相談ください。最後に、コレステロールは全体の80%が肝臓でつくられています。残りの20%が卵など、食事から摂取されているのです。これらのことからもわかるように、毎日1個程度の卵を食べただけでは、体内のコレステロール量にはなんら影響はないんです。
【 コレステロールの値が低いと心配なことが…】
コレステロールの値は、逆に低すぎても心配なことが起こってきます。健康を維持するためには、ある程度高い値を維持していた方がいいようです。その理由を少しここで紹介します。
① 国立循環器病センターの研究グループによる8年間の追跡調査で、血液中のコレステロール値が低い人ほど、脳卒中の発生リスクが高まるという結果が得られています。
② 総コレステロール値が180㎎未満になると、がんの死亡者が増えることが報告されています。また、大阪府八尾市の住民12,000人の調査結果でも、コレステロール値が低い人ほどがんの罹患率が高まることがわかっています。
③ 東京都老人総合研究所による65歳以上(504人)の人を対象に、4年間追跡調査した結果でも、低コレステロールの人はうつ病になりやすいという報告がされています。
④ 厚生労働省研究班は、「卵をほぼ毎日食べる人」と、「週に1~2日しか食べない人」を比較すると、「血中コレステロール値や心筋梗塞の危険性は変わらない」という疫学調査を発表しました。この調査は、1990年から10年間、全国10府県の40歳から60歳の男女約10万人の生活習慣病を追跡したと言う信頼できる大規模なものです。
3.卵に関する豆知識
① 卵の料理の仕方で消化時間が違うって本当?
風邪をひいた時、体調がすぐれない時に“半熟卵“を食べた経験のある方、いらっしゃいませんか?確かに卵は栄養バランスが良いのですが、なぜ“半熟卵”なのかと不思議に思ったりしませんでしたか?卵は、調理の仕方によって様々な形や硬さに変化しますが、その調理方法によって、消化時間が異なってきます。卵の食べ方・調理法として、主に「生卵」、「半熟卵」、「ゆで卵」、「目玉焼き」、「玉子焼き」などがありますが、消化の良い順に並べると次のようになります。ア.半熟卵:1時間半イ.ゆで卵:2時間半 ウ.生卵:2時間45分 エ.目玉焼き:3時間 オ.玉子焼き:3時間15分 ※ 以上は、卵1個当りの消化時間の目安です。
② 卵はSサイズの方がお買い得って本当?
Sサイズの卵は、小さいので不人気ですが、実はSサイズの卵は若鶏が産んでいるため、鮮度が落ちにくく、ビタミンなども多いと言われています。Lサイズや、LLサイズの卵は確かに見た目大きく感じるのですが、外側の大きさと比較して卵黄の大きさには、あまり変化がありません。卵黄のサイズがあまり変わらず、しかも新鮮なのでSサイズの卵を選んだ方がお買い得なんです。ちなみに、Lサイズの重さが64~70gなのに対し、Sサイズは46~52gと、2割以上重さが軽くなっています。
4.卵の健康パワー
卵はカロリーが低いにもかかわらず、タンパク質が豊富で、特にビタミンDやビタミンB12、セレンやコリンなどの必要な栄養素が多いので、有名なバランス食品です。また、体の機能を維持するのに必要な栄養素である必須アミノ酸や、抗酸化物質などが豊富に含まれています。
① 脳を活性化させて記憶力をアップ!
卵は、コリンという栄養素を多く含んでいます。コリンを多く含むことで有名なあの大豆の約3倍にもなります。 コリンは、記憶や学習に深く関わっている神経伝達物質のアセチルコリンの素になる物質で、コリンを多く摂った人々の学習能力が25%もアップしたという実験結果があります。卵黄に含まれるコリンは、脳を活性化させ、老人性認知症の予防にも有効だと現在注目を集めている物質です。
② 肝臓を守る力は抜群!
卵には、肝臓でアルコールを分解するときに必要なアミノ酸メチオニンが多く含まれています。これは、二日酔いの薬にも必ず入っている成分です。また、弱った肝臓の回復力を高める成分である3つのアミノ酸(シスチン、グリシン、グルタミン)もバランス良く含まれています。お酒のおつまみには卵料理がお薦めです。
③ 頼りになる殺菌力抜群の”リゾチーム”!
体に有害なウイルスを溶かす働きを持つリゾチームは、卵白に含まれる酵素です。殺菌効果抜群で免疫力を高めるので、風邪薬にも使われています。風邪には卵酒と言う”おばあちゃんの知恵”は、実は、理にかなっているのです。
④ 疲れやストレス解消にも効果的!
卵の良質なタンパク質は、筋肉が痩せるのを防ぐと同時に、身体を動かすエネルギー源として働き、疲労回復や内臓の働きの活性化も助けます。人間の体内ではつくれない8種類の必須アミノ酸すべてがバランス良く含まれており、消化吸収も抜群です。ご高齢の方では、1日60~70gのタンパク質が必要とされていますが、卵1個には、およそ6gのタンパク質が含まれていると言われています。ちなみに、牛乳200ml中にも、卵と同じおよそ6g程度のタンパク質が含まれています。なんとコレステロールの量は、わずか25㎎なんですよ。
⑤ ビタミンやミネラルも豊富!
さらに卵は、ビタミンA・B1・B2・D・E、鉄、リン、カルシウムなどのビタミン・ミネラル類を豊富に含む栄養食材です。中でもビタミンDは、1個の卵で1日の推奨量の20%以上を摂取することができると言われています。 ビタミンDの摂取量が足りないと、骨が弱くなり、がんや心臓病、多発性硬化症や免疫障害などの様々な病気につながると言われています。また、以前認知症の講座でもお話したように、ビタミンDが欠乏しているご高齢の方は、認知機能の低下が早いことも分かっています。
なんとすばらしい卵の健康パワー。皆さん、是非毎朝1個の卵を食べることをオススメします。
【東洋医学コーナー】
東洋医学の考え方の重要な柱の一つに、「未病治(みびょうち)」という言葉があります。これは、病気になる前に治してしまおうという考え方です。つまり、予防医学です。 バランスの取れた食事に加え、適度な運動や充分な睡眠などは、未病治を実践するという点で、とても大切なことだと言えます。
6.まとめ
卵には、必須アミノ酸の一つであるトリプトファンというタンパク質も含まれています。このタンパク質は、私たちが普段の生活の中で「楽しい」と感じるために必要な栄養素だと言われています。つまり、脳内にトリプトファンが欠乏してくると、どんなことをしても「楽しい」と感じることができなくなってくるのです。これが、心の病である「うつ病」です。卵に含まれる多くの栄養素は、知らず知らずのうちに、私たちを健康な生活へと導いてくれているのです。
今まで、私は毎朝1個の卵を食べていましたが、最近バローで買った温泉卵のおいしさに目覚めて、夜も食べるようになりました。タンパク質は筋肉を維持していくためには欠かすことのできない栄養素です。皆さんも、卵だけでなく、牛乳や納豆、豆腐、そして肉や魚なんかをバランスよく摂取して、健康な毎日を送ってくださいね。
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