第16回 夏と食中毒 (H21.6.28)

みなさん梅雨真っ盛りですが、いかがお過ごしですか?
毎年この時期になると、身体の不調とあわせて食べ物による健康被害があちこちでささやかれるようになります。
今回は、1年の中でも梅雨時から夏にかけて多く発生する食中毒についてみなさんと一緒に勉強したいと思います。

 

1.食中毒って何だろう?
食中毒とは、飲食物を介して体内に入った病原菌や、有害な物質によって起こる、
嘔吐(おうと)・腹痛・下痢・発熱などの急性の健康障害のことをいいます。
平成19年度の全国調査によると、食中毒の原因として最も多かったのは、
カキや海産魚貝類などの加熱しないで食べる食品が原因となるノロウイルスでした。
なんと全体の半数以上を占めていたそうです。
他に、鶏肉・卵の加熱不充分が原因となるサルモネラ菌、牛肉・豚肉・鶏肉などの加熱不充分が原因となる
カンピロバクター、生の海産魚貝類が原因となる腸炎ビブリオなどが続きます。
これら4種類が原因となって発生する食中毒は、全件数中の約70~80%を占めています。
発生原因を季節別に見てみると、夏場に多い原因菌は、腸炎ビブリオ・サルモネラ菌・カンピロバクター・O-157などです。
反対に、冬場に多いのはノロウイルスです。
平成20年度における岐阜市での食中毒の発生は全部で8件でした。
このうち、ノロウイルスが3件、O-157が2件、カンピロバクターが2件、そして黄色ブドウ球菌が1件でした。

 

2.どんな特徴があるの?
ここで、梅雨から夏場にかけて多く発生する2つの食中毒を紹介します。

① 腸炎ビブリオ
夏に発生する食中毒の中で、最も多いと言われます。
汚染された海産魚貝類(タコ・イカ・アジ・サバ・シラスなど)の生食が最も多く、他に卵料理や天ぷらなどでも発生します。
典型的な症状では、食後10~24時間後に激しい腹痛と下痢が起こります。
特に腹痛は、さしこむような激痛で、猛烈な苦しさを伴います。
また、激しい下痢が何度も続くため、脱水症状を起こすこともあります。
発熱はあまりなく、ほとんどは抗生物質の投与などで2~3日で回復します。
ただし、水のような便が正常に戻るまでには1週間くらいかかります。

② サルモネラ菌
サルモネラ菌は、ニワトリ・牛・馬・ネズミ・カメなどの腸内に常在しており、
生卵・生食の肉・加工食品の汚染が原因食品となります。
生卵は、冬(10℃)では約57日、春秋(20℃)では約30日、
夏(30℃)では13日(家庭の10℃の冷蔵庫に7日保管を含む期間)が一応安全の目安だと言われています。
室温が30℃以上で栄養充分な環境では、1個のサルモネラ菌は約6時間で25万個に増え、
食中毒を引き起こすことが充分可能となります。
一般に、食後12~24時間前後で急激に発生し、1週間前後で回復します。
主な症状は、38~40℃の高熱・腹痛・下痢・嘔吐・頭痛などです。

【東洋医学コーナー】
東洋医学では、食中毒を病の原因の1つである「飲食」として考えています。
飲食とは、暴飲暴食・生物や冷たいものの取りすぎ・偏った食事・不衛生な物の飲食など、
食事によるトラブルにつながる原因すべてを指しています。 
食事については、厚生労働省も生活習慣病予防として、バランスのとれた食事を心がけるようにといっています。
具体的には、偏った食事をせず、一日30品目の食材を摂取するということだそうです。
これに加えて、充分な睡眠を取ることで、身体の内外で発生した様々な邪気から
身を守るための防衛体力を身につけることになるわけです。

 

3.食中毒菌の殺菌対策

(1) 食中毒菌の殺菌温度とそれに要する時間の目安は?

  1. O-157で汚染されたコーンクリームスープは、70℃で1分以上の加熱をすれば死滅します。
  2. O-157で汚染されたハンバーグをホットプレートで焼くと、フタをしない場合では、
    中心温度が75℃1分の加熱でも菌は生き残ります。
    しかし、フタをして片面3分ずつ計6分焼いた場合(中心温度60~72℃)には、菌は完全に死滅します。
  3. O-157で汚染された牛カルビをホットプレートを使って200℃で、両面を1分づつ焼いた後に、
    さらに裏返して10秒焼けば菌は死滅します。
    なお、焼肉をするときは、生肉の取り箸と食べるときの箸は、必ず別にする必要があります。
  4. O-157以外でも、カンピロバクター、サルモネラ(SE)、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌などの
    代表的な食中毒菌は全て75℃1分間の加熱で死滅します。

(2) 食中毒の抗菌作用について

  1. 食酢には抗菌作用があり、酢飯を30℃で保管しても10時間程度、15℃保管では1日置いても大丈夫でした。
    しかし、食酢が入っていない場合は30℃保管した場合約4時間、15℃で保管した場合約6~7時間程度で
    食中毒を引き起こす状況になるそうです。
  2. 梅干しには抗菌性が認められますが、梅干しに接している周囲だけです。
    なので、おにぎりに梅干しを入れても、おにぎり全体が大丈夫というわけではなさそうです。
  3. わさびの抗菌力、特に抗カビ力は想像以上に強いです。
    わさびの抗菌力の主体である辛味成分は、揮発性です。
    わさび約1g分に相当するわずか500分の1㏄の辛味成分でも殺菌効果がみられ、
    O-157菌数は1時間後に約8分の1に、4時間後には20分の1に減少していました。
    腸炎ビブリオに対する殺菌力は、さらに強く、1時間後に菌数が約10分の1、
    4時間後には500分の1にまで減少し、8時間後には完全に死滅していました。
    ただし、その作用は揮発性成分によるところから、密閉容器内か、それに近い容器内で威力が発揮されます。
    タッパーウェアーや折詰め弁当の隅に、少量のすりおろしわさびやチューブ入りわさび、
    また、わさび漬けなどを置くことによって、O-157の増殖をしばらくは抑えることが可能となります。
  4. 手洗いの除菌実験の結果では、逆性石けんやアルコールの効果は非常にありました。
    普通の家庭で料理をするときには、お湯を使って石けんで2度洗いをするのが最低の予防法だそうです。
  5. ふきんの殺菌は、湯沸かし器の熱いお湯に浸ければ、ほとんど一瞬で除菌ができます。
    また、塩素系漂白剤でも同じような効果が得られます。
    なお、いずれの場合も汚れがついていると殺菌効果が落ちることが知られています。
    除菌する前に洗剤でよく洗うことが必要です。

 

4.家庭でできる食中毒予防6つのポイント
食中毒は、簡単な予防法をきちんと守っていれば予防できます。以下にそれを紹介します。

ポイント1 食品の購入

  1. 新鮮なモノを購入しましょう(消費期限などを確認)。
  2. 肉や魚などは、水分がもれないようにビニール袋で、それぞれ分けて包み、持ち帰りましょう。
  3. 冷蔵品や冷凍品などは、購入したら、まっすぐ家へ帰りましょう(特に、おさしみなど魚貝類は、一番最後に購入)。

ポイント2 家庭での保存

  1. 持ち帰ったら、すぐに冷蔵庫や冷凍庫へ入れましょう。
  2. 冷蔵庫や冷凍庫は詰めすぎに注意しましょう(目安は7割くらい)。
  3. 肉や魚などは、肉汁や余分な水分がもれないように、それぞれビニール袋や容器に入れ、冷蔵庫へ入れましょう。

ポイント3 下準備

  1. 手を洗いましょう。
  2. タオルやふきんは、清潔で乾いたものを使いましょう。
  3. 包丁やまな板など調理器具は、使った後すぐによく洗い、熱湯で消毒しましょう。
  4. 冷凍食品は、使う分だけ解凍し、解凍後はすぐ調理しましょう。
    冷凍された魚貝類を調理する場合は、流水または冷蔵庫内で解凍するか、電子レンジで解凍し、すぐ調理しましょう。

ポイント4 調理

  1. 台所は、清潔ですか? もう一度確認しましょう。
  2. 加熱は中心部まで充分に行いましょう(目安は中心温度75℃で1分間以上)。
  3. 電子レンジでは、熱が伝わるように時々かき混ぜましょう。
  4. 調理を途中でやめて放置しないようにしましょう。

ポイント5 食事

  1. 食卓につく前に手を洗いましょう。
  2. 清潔な器具、清潔な食器を使いましょう。
  3. 調理後の食品は、早めに食べましょう。すぐ食べない場合は、冷蔵庫に保存しましょう。
  4. O-157は、室温でも15~20分で2倍に増えることを知っておきましょう。

ポイント6 残った食品

  1. 早く冷えるように、浅い容器に小分けして冷蔵庫で保存しましょう。
  2. 温め直すときは、充分に加熱しましょう。
  3. 時間がたちすぎたら、思い切って捨てましょう。

 

5.まとめ
食中毒を起こさないためには、最低以下の3つのことを守りましょう。

  1. 食中毒の原因菌を「つけない」
    食品を菌に触れさせないよう、手や調理器具はしっかり洗い、食品は包んで保存をしましょう。
  2. 食中毒の原因菌を「増やさない」
    冷蔵庫の湿度管理に気をつけ、食品は早めに食べ切りましょう。
  3. 食中毒の原因菌を「殺す」
    充分に加熱(少なくとも中心温度75℃1分)して食品内部の食中毒菌を殺菌しましょう。

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