第33回 怖いエコノミークラス症候群 (H23.4.24)

春ですね。日中は、もうすっかり暖かくなりました。でも、花粉の飛散が絶好調ですので油断は鳴りません。
東北大震災で被災された方々、特にご高齢の方の下肢の血液の流れが悪くなっているようです。
今回は、他人事ではない、そんな「エコノミークラス症候群」について皆さんと一緒に勉強したいと思います。

 

1.エコノミークラス症候群って何?
エコノミークラス症候群とは、元々長時間の航空機のフライトが原因で起こる身体の事故を言います。
飛行機の中は湿度が低く、20%程度しかありません。
そのため、機内では身体から水分が失われ、脱水症状を引き起こして、血液が濃い状態になっています。
そんな乾燥した機内で、窮屈な姿勢のまま長時間座り続けていると、膝の裏や太ももの裏側が圧迫されて、静脈の中に血栓(血液の塊)ができてしまいます。これを深部静脈血栓症と呼んでいます。
この状態で歩き始めると、血栓が血管からはがれ落ち、血液の流れに沿って、太ももから心臓、そして心臓から肺へと流れていきます。
肺の血管は先が細いため、血栓はそこに詰まって、肺塞栓症(はいそくせんしょう)が生じてしまうのです。
そうなると、肺機能が失われ、呼吸困難、動悸、胸の痛みから突然気を失ったり、ひどい場合には死に至ることもあります。
当初、航空機内のエコノミークラスの乗客からの発症が報告されたため、エコノミークラス症候群と呼ばれていますが、エコノミークラスに限らず、ビジネスクラスなどの別の座席でも起こります。
また、長距離列車、長距離バス、長距離船舶などの座席や、劇場、ぱそこんの前、車いす使用者など、狭いシートに一定の姿勢のまま長時間座り続けていると、同様の危険があるとされています。

 

2.原因とその症状は?
下肢に血栓ができる原因としては、下肢の病気、脱水、感染、長時間の座った姿勢、長期臥床、手術などによる血流うっ滞などがあります。
また、普段から運動不足や食事の不摂生といった生活習慣の乱れなどがあると、起こりやすくなります。
下肢の静脈に血栓が生じると、静脈炎が起こります。すると、筋肉痛、圧痛、腫れ、熱を持つといった症状が現われます。
症状が進行すると、動脈血流も圧迫されて蒼白状態になり、さらには下肢が腐る危険性も出てきます。
また、この静脈炎を引き起こした血栓がはがれて肺動脈まで流れて行き、そこで詰まると、肺塞栓症を引き起こします。
その結果、呼吸困難をきたし、肺の血圧が上昇して全身の血液循環に支障をきたします。軽度であれば胸やけや発熱程度で治まりますが、最悪の場合は死亡します。

 

3.どんな人が危険なの?
次のような病気や症状を持つ人は、窮屈な座席に長時間座り続けていると、太ももの裏などに血栓が起こりやすくなると言われています。
また、ご高齢の方は、特に気をつけてください。該当する人は、あらかじめかかりつけのお医者様に相談するとよいでしょう。

「下肢の血管にこぶができる病気(静脈瘤など)」
「下肢の手術やけが」
「がん(悪性腫瘍)」
「今までに、下肢の静脈に血栓ができたことのある人(深部静脈血栓症)」
「血液が固まりやすい人」
「肥満」

 

4.予防法は? ~ 5つのポイント
エコノミークラス症候群は発症の怖さの一方で、原因が分かっているため、ちょっとした対策で予防は可能です。次のようなことに注意しましょう。

① 「常に身体を動かすようにしましょう」
窮屈でかたいイスに何時間も腰かけていてはだめです。定期的に手足を動かしたり、歩き回ったりして身体を動かすようにしましょう。立ったり座ったりを繰り返すだけでも、血液の循環は良くなります。
また、以下のような座ったままでもできる足の運動を1時間に1回程度行うよう心がけて下さい。

1) 両肩をすくめて、リラックスして肩を落とす 5回
2) 頭をゆっくりと右肩と左肩に傾ける 3回
3) 両足を床に置き、膝を胸の方にゆっくりと持ち上げる 3回
4) つま先やかかとを上げ下げする 10回
5) 深呼吸する 3回

② 「適度な水分を補給しましょう」
上記のような運動の他に、有効な予防法とされているのが水分補給です。
一度にたくさん飲むのではなく、こまめにちょこちょこと飲むようにしてください。

③ 「アルコールやコーヒーの飲み過ぎには注意しましょう」
アルコールやコーヒーを飲むと尿が出やすくなり、血液中の水分が減少して、血栓ができやすくなります。飲み過ぎには注意しましょう。

④ 「ゆったりとした服装を心がけましょう」
狭い場所で、長時間座り続けているような場合は、ジーパンなど身体を締め付ける服装は避け、ゆったりとした服装を心がけましょう。

⑤ 「窮屈なイスなどに長時間座り続ける前に、軽めの飲食を取るとよいでしょう」
お菓子を食べたり、軽めの食事をしたり、あるいはノンアルコール飲料を摂取することが、血行を促し血栓予防に役立つようです。
ただし、食べ過ぎは逆効果になりますので、適度な飲食を心がけましょう。

 

5.新聞記事の抜粋から
「東日本大震災で被災した宮城県内の住民について、新潟大大学院の榛沢和彦医師らが検診したところ、39人のうち11人からエコノミークラス症候群につながりかねない血栓が見つかったことが23日、分かった。環境が悪い避難所生活を送る人や、車中泊の人ほど見つかる確率が高かったという。
同医師らが検診したのは、37~81歳の男女39人。床に畳を敷くなどした避難所では、11人中1人しか血栓が見つからなかったのに対し、被災者が廊下に雑魚寝していた避難所では9人中4人から血栓が確認された。
また車中泊をしていた8人は半数の4人から血栓が見つかっており、生活が改善されず長期化すればエコノミー症候群も懸念される。」

 

6.まとめ
エコノミークラス症候群は、ご高齢の方が、長い車中泊や災害時の避難所生活で発症しているケースが多いようです。
また、車いす利用の方も要注意です。
車いすの場合、膝の位置がお尻より高いと、太もも部分の血液の流れが悪くなるため、お尻の下にクッションを置くとよいと言われています。
やむを得ず、車中泊をする場合は、「できるだけゆったりとした服装にする」、「足を何かの上に上げた状態で寝る」ことが効果的とされています。

4月20日は旧暦の二十四節気では、穀雨(こくう)と呼ばれています。春の太陽が強さを増すこの頃の雨は、五穀の成長に天の慈雨(じう)という意味で、穀雨と呼ばれているそうです。
私たちの心身の成長やリフレッシュ、そして健康などにも何らかの影響があるのかも知れませんね。

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