第41回 脳を健康に保つには (H24.4.22)

あんなに寒かった冬も影を潜め、ようやく春の訪れを感じさせる季節となりましたが、皆さんお変わりありませんか?
盲学校にも新入生が入り、慣れない生活の中で、あわただしく毎日が過ぎ去っています。
さて、今回は脳の健康について焦点を当ててみました。皆さん、是非一緒に勉強しましょう。

 

1.脳の進化
人類の祖先が木から地面に下りた時の脳の重さは、約400グラム程度だったと言われています。これは、チンパンジーと同じ位です。
その後、600グラム、900グラムと少しずつ増えていき、現在は約1,400グラムの重さがあります。
脳がこれだけ発達した理由には、非常に効率良く、脳に栄養を摂り入れることができたためと考えられています。
チンパンジーが食べる物は自然の物ですが、人間が食べる物は穀物や肉類を食べやすいように加熱調理して栄養を摂ります。
これを栄養価で比較すると、チンパンジーの食品類に比べて、約10倍もの栄養を人間は毎日摂っていることになります。
人間が摂り込む高い栄養は、ほとんど脳のために使われているとも言えるのです。

 

2.脳と栄養
人の脳の重さは、体重のわずか2%に過ぎませんが、必要とする栄養は体全体の25%にもなります。
要するに、脳は筋肉や内臓と比べて、多くの栄養を必要としている場所なんです。
体の健康や栄養に気を使うことも大切ですが、脳のことも考えてやらないと『うつ病』や『認知症』といった心の病につながってしまいます。
脳が正常に働かなくなると、体の健康も維持できなくなりますから、『脳の健康と栄養』は私たちが健康で長生きするためには非常に大切なことなんです。

【東洋医学コーナー】
東洋医学の考え方の一つに、「心身一如(いちにょ)」と言う言葉があります。これは、心と身体は別のものとして考えるのではなく、常に一つのものとして考えていこうというものです。
 心を病むと身体も病んでくるし、身体を病むと心も病んできます。私たちは、身体の健康を維持すると同時に、心の健康にも目を向けていかなければいけないのです。

 

3.脳と肉や卵、牛乳
肥満の予防には、野菜を多く摂って、肉や卵や牛乳などはなるべく摂らない方が良いと思われていますが、脳の活動や栄養という視点で見ると、少し様子が変わってきます。
うつ病は、脳内のセロトニンという物質が少なくなって起こるということが既にわかっています。

そこで、うつ病には脳内のセロトニンを増やす薬が処方されています。これが抗うつ剤です。
ヨーグルトに代表される長寿食品の源の牛乳は、たくさん摂れば長寿につながると考えられています。
肉や卵、そして牛乳などには、必須アミノ酸の一つであるトリプトファンが多く含まれています。
セロトニンは、このトリプトファンからしか作り出すことができませんので、積極的にこのような食品を毎日摂り込まなければなりません。

また、食後に甘い物を食べると、脳の中にトリプトファンが入って行きやすくなります。
つまり、食後に甘いデザートを摂ることによって、脳が安定し、満足感が得られるのです。
健康的な食事法として、「腹八分目で食後少し甘いデザートで満足感を得る」というのが、体と脳にとって良い栄養の摂り方と言えるのです。

 

4.セロトニンを増やす方法
次に、トリプトファンを、更に効果的にセロトニンに変える方法を説明します。

① 光を浴びる
日中、太陽の光を浴びることは、骨を丈夫にする効果や、充分な睡眠を得るためにも欠かすことができません。また、目や耳や鼻から入ってくる刺激が脳を効果的に興奮させてくれて、脳の働きを高めてくれます。

② 運動をする
日中の運動(体操やウォーキングなど)は、血液の流れをよくするだけでなく、気分を心地よく高めてくれる働きがあります。

③ 心に明るい思いを持つ
「イヤなこと」や、「失敗したこと」などをずっと心に持ち続けていると、気分が落ち込み、夜の睡眠にも影響が現れてきます。
そんなときは、以下の言葉を口に出すように心がけましょう。不思議と、このような記憶が頭から消えてくれます。

  • 「困ったことは起こらない」
  • 「すべてはよくなる」
  • 「イヤなことは考えない」

以上をまとめると、食後、外で日光を浴びながら、軽い運動をするのも良いですし、無理をせず前向きに楽しく生きることで、肉や卵や牛乳から摂ったトリプトファンが、より多くセロトニンに変わっり、脳の健康にとって良い状態を作り出してくれるのです。

 

5.脳とコレステロール
卵やマヨネーズなど、コレステロールを多く含む食品は、なるべく摂らない方が良いとされていますが、脳の立場から見たコレステロールは、一般論とは少し様子が違います。
コレステロールは、直接脳には入っていきませんが、形を変えて脳に入っていき、脳を守る働きをしています。
コレステロールの2つの大事な働きを以下に紹介します。

① 脳梗塞になりにくい
コレステロールを多く摂っている人は、脳梗塞が非常に少ないというデータがあります。これは、コレステロールの脳細胞を守る働きによるものです。
脳梗塞の後に、失語症になった人を調べると、血中コレステロール値が高い人は、低い人に比べて、失語症の症状がひどくない傾向にあります。
コレステロールが身体に悪いからといって、極端に摂らないでいることは、脳梗塞の予防という点から見て良いことではないのです。

② 認知症になりにくい
コレステロールを多く摂る人は、認知症になりにくいということが世界的にわかってきています。
また、逆にコレステロールを下げる薬を飲んでいる人も、認知症になりにくいという事例があります。一見すると、相反する事実ですが、コレステロールを下げる薬は、脳内ではコレステロールに作用しないで、脳の炎症を抑える働きをして、脳内のコレステロール値はあまり変わらないことがわかってきました。

認知症になると、脳に「老人斑(はん)」という脳の細胞が死んでシミのようになった斑点が見られることがありますが、コレステロールを比較的多く摂っている人の脳には、老人斑が少ないことがわかっています。
だからといって、脳梗塞や認知症予防にコレステロールが良いからと、健康を害するほどコレステロールを摂ってはいけません。そんなことをすると、確実に動脈硬化は進行していきます。
また、極端な健康志向やダイエットで、本来必要なコレステロールを摂らないなど、栄養のバランスを欠いてはいけません。
肉や卵、そして牛乳も本来健康を保つ上では大切な栄養を含んでいます。
中性脂肪やコレステロールばかり摂るような偏った食事は健康を害しますが、野菜やサプリメントばかりの偏った食事も健康を害します。
健康な人では、高齢者でも1日1個の卵と、1日70グラムの肉は平均的な日本人にとって妥当な量のコレステロールを摂取できる目安だと言われています。
脂質異常症など、コレステロールを減らさなければいけない人は、自分の判断で減らすのではなく、医師と相談した上でコレステロールを含む食品の制限を行うようにしてください。

甘い物やコレステロールは、摂りすぎても、避けすぎても健康には良くありません。
何事もバランスを考えてほどほどに摂ることが、健康長寿のためになるのです。

 

6.脳を元気にする方法!
最近、マスコミで取り上げられてブームになっている『脳トレ』や『脳の若返り』は、すべて『脳』に栄養を充分与えてやることが前提条件となっています。
充分な栄養を与えた上で、『脳トレ』や『脳の若返り』などによる脳への刺激が、脳の“脳力”を高めて、脳を元気にすることにつながっていくのです。

 

7.まとめ
最近、ご高齢の方のたんぱく質欠乏が大きな問題になっていると言われています。
たんぱく質が欠乏すると、生活の質が低下したり、床ずれが起きたりするだけでなく、認知症にもなりやすくなります。
うつ病や自殺、そして引きこもりなどが社会的問題になっていますが、その原因も、これまでお話ししたとおり、脳の栄養不足と深く関わっていると考えられています。
私たちの願いは、元気で長生きすることです。しかし、脳の栄養を考えずに、それはあり得ません。
今こそ、科学的根拠に基づいて、脳も含めた身体全体の栄養の重要性を認識すべきときではないでしょうか?

 

今回の内容は、浜松医科大学の名誉教授、高田明和先生のお話を参考にして作らせていただきました。
高田先生は私の尊敬する先生で、脳の健康について、NHKラジオなどでよくお話をされている方です。
では皆さん、次回の講座をお楽しみに!

前のページへは、ブラウザの戻るボタンでお戻りください。