4.脳卒中になると

さて、重田塾第4弾。今回は難しいけど大事です。かなり気合いを入れていきましょう。
脳卒中で起こる具体的な症状の話です。
つまり、片麻痺、半身の感覚障害、優位半球の場合は、失語、失行、失認です。
ただし、非優位半球でも失行と失認は起こります。

① 片麻痺
脳卒中で、中枢神経が傷害されると痙性麻痺になると前回お話ししました。
痙性麻痺は縮みっぱなしと考えてください。
つまり、屈伸がしづらい状態です。が、縮んでいる筋が、上肢では屈筋、下肢では伸筋が優位となります。
そのため、上肢は、肘を屈曲、前腕を回内、手指を屈曲、下肢は、股関節を伸展・外旋・外転、膝を伸展し、
足は内反尖足位で拘縮します。このような姿位をマン・ウェルニッケ型姿位といいます。
このような状態になると歩行にも障害が見られます。みなさんも自分でやってみてください。
膝を曲げずに足を後ろから前に出してみてください。
普通には無理です。反対側に傾けば前に出せるでしょう。
が、片麻痺患者では困難です。
そこで、股関節を中心に半円を描きながら振り出す分回し歩行となります。

② 失語
言語障害には、失語症と構語(音)障害があります。
言語中枢は、右利きの人手は大部分が左半球(90%)にあります。
ですので、左脳に脳血管障害が起こった右片麻痺で障害が現れます。
言語中枢には、言語を表出するブローカ中枢と言語を理解するためのウェルニッケ中枢とがあります。
これを踏まえての話です。
失語症とは、発語に関与する末梢神経・筋に異常はなく、知能や意識障害もなく、
言語による表現や文字の理解ができない状態をいいます。
その種類には、

a.ブローカ失語(皮質性運動失語)
名前の通りブローカ中枢の障害により起こります。症状としては、自発言語の流暢性が失われ、
復唱、書字、音読が障害され、また言語の理解や読解も軽度に障害されることが多いです。

b.ウェルニッケ失語(皮質性感覚失語)
名前の通りウェルニッケ中枢の障害により起こります。
症状は、聴覚および視覚による言語の理解、復唱、書字、音読などが障害されます。
自発言語に流暢性はありますが、内容は意味不明のものが多く、錯語(言葉をいい誤る)がみられます。

c.伝導失語
ウェルニッケ中枢とブローカ中枢を連絡する伝導路が障害されています。
症状は、言語の復唱が障害され、自発語にも錯語がみられます。

d.健忘失語
物の名称を想起できないというだけの症状です。会話の中で必要な言語を忘れて言えないわけです。
各回の障害が重視されていますが、種々のタイプの失語の回復過程でみられます。

e.全失語
ブローカ失語とウェルニッケ失語が合併した状態です。
症状は、言語の表出・理解ともにできないですし、自発言語は極めて少ないです。
ブローカ中枢、ウェルニッケ中枢ともに障害されています。
失語症はここまでです。
ちなみに構音障害とは、末梢発語器官(舌・口唇・咽頭・喉頭など)の筋・支配神経の障害により、うまくしゃべれない状態ですが、
今回は省略します。ホッとしますね。

③ 失行
失行とは、運動麻痺、知能障害がなく、行うべき動作や行為について了解しているのに動作や行為ができない状態です。
つまり分かってはいるができないのです。

a.観念運動失行
言語で命令された動作は行うことができません。
しかし、自然の状況下ではその動作は行うことができます。
例えばハシを使って食事をする真似をするよう命令しても、何を言われているか分からず、
考え込んでしまうか別の動作をしてしまいます。
しかし、食事を実際にするときは、上手にハシを使ってすることができます。

b.観念失行
つながりを持った一連の動作をさせると、順序を間違えたり、途中をとばしたりします。
動作をするために与えられた品物が何であるかはよく認識できています。
例えば、たばことマッチを渡してたばこに火をつけて吸う動作をさせても、
たばこに火をつけることがわからず、おかしな動作をします。
左半球頭頂葉を中心とする広範な病変によります。

c.分節性失行
指先の細かい動作がうまくいかない肢節運動失行、顔面部の舌を出したり、
眼を閉じたりする動作に支障をきたす顔面失行、
一側の手足の観念運動失行をきたす一側性失行などがあります。

d.構成失行
絵をかいたり、積木をするような視覚的な構成行為が障害されるものをいいます。
頭頂葉後部の損傷によります。

e.着衣失行
着衣動作だけが障害されるものをいいます。袖を通したり、ネクタイをしめるような動作ができません。
半球頭頂葉後部の損傷です。

④ 失認
失認とは、視覚・聴覚・触覚などの感覚障害、意識障害、知能障害がないにも関わらず、
感覚情報の統合による物体・身体・空間の認知が障害された状態です。
何のことか分かりにくいですよね。では、具体的に見ていきましょう。

a.視覚失認
ア.物体失認
物は見えますが、それが何であるか分からない状態です。両側後頭葉の障害です。
イ.色彩失認
色彩は区別できますが、何色かを言うことができません。左後頭葉の障害です。
ウ.純粋失認
文字や文章を音読することや、読んで理解することだけが障害される状態です。
左後大脳動脈の梗塞で起こり、左後頭葉と脳梁膨大部が損傷しています。
エ.相貌失認
人の顔の識別ができない状態です。顔以外の声などの手がかりがあると誰だかが分かります。
右後頭葉の障害です。
オ.視空間失認
半側空間にあるものを無視する状態です。右頭頂葉に病巣のある左半側空間失認が多いです。
この場合、右半側空間にあるものに衝突するようなことが起こります。

b.聴覚失認
音は聞こえますが、何の音か分からない状態です。話し言葉だけが障害されたものを純粋語聾、
音楽だけが障害されたものを感覚性失音楽症といいます。両側側頭葉の損傷です。

c.触覚失認
触覚は保たれていますが、触った物が何であるか判断できない状態です。
これには触れた物の材料が分からない素材失認、触れた物の形が分からない形態失認、
素材も形も分かるが物の名前が分からない狭義の触覚失認などがあります。
一側の頭頂葉の障害です。

d.身体失認
自分の身体認知が障害されている状態です。
ア.両側身体失認
体の部位の名前が分からず、指さしのできないものを身体部位失認といいます。
手の指に限られている場合を手指失認といいます。左頭頂葉の損傷です。
イ.半側身体失認
運動麻痺がなくても身体半側を無視し、無視した側の上肢を使用しようとしないものです。
右頭頂葉の損傷により、左に出現することが多いです。
ウ.病態失認
左片麻痺があるのにそれを認めようとしないもので、脳血管障害による右頭頂葉障害の急性期にみられることが多いです。

ここまでです。やっと終わりました。さて、何回読み返せば理解できるでしょうか?

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