12.虚血性心疾患って

生活習慣病の基盤となる脂質異常症、そして動脈硬化の勉強をしました。
これに続くものは、たくさんありますが、今回は虚血性心疾患の勉強をします。

さて、虚血性心疾患って何でしょうか? 心筋の栄養は、冠状動脈が行っています。
心臓の中は、血液が満たしていますが、心臓はそこから栄養を受け取るのではなく、
左心室から出た上行大動脈から分枝する冠状動脈が栄養しています。
心臓の重さは約300gですので、体重60㎏の人だと0.5%に当たります。
しかし、伸筋は、1回拍出量の5%の血液を必要とします。
これが冠状動脈の病変(動脈硬化)によって、
一過性または持続性に心筋に虚血状態が起こったものが虚血性心疾患です。
これには狭心症と心筋梗塞とがあります。
ここまでは大丈夫ですよね。ここからが本番です。

まずは狭心症について。
冠状動脈の障害により心筋を流れる血液が一過性に減少し、
酸素が不足するために心臓部の痛み(狭心痛)を起こす疾患です。

狭心症には、次のものがあります。
① 労作性狭心症
階段を駆け上がった時などの身体の運動によって引き起こされるものです。

② 安静狭心症
安静時にも発作が起こります。労作性狭心症より胸痛は長いです。
安静狭心症のうち、心臓神経である自律神経の異常により冠状動脈が攣縮して
起こるものを異型狭心症といい、日本人の安静狭心症に多い型です。
異型狭心症は、明け方に発作が起こりやすく、心電図上の所見としてSTが上昇します。
狭心症の成因は、冠状動脈硬化が大部分ですが、膠原病、大動脈炎症候群、
大動脈弁膜症、僧帽弁口の狭窄などによるものもあります。また、貧血によるものもあります。
一応、大動脈炎症候群についても説明しておきます。
大動脈およびその主要分枝に非特異性炎症が起こり、内腔の狭窄(ときに拡張)をきたすために、
多様な症状を呈する疾患です。東洋の特に女性に多いです。

さて、狭心症に話をもどして危険因子についてです。
加齢、脂質異常症、高血圧、糖尿病、肥満、高尿酸血症、喫煙、ストレス、性格などが挙げられます。
症状は、ある程度ご存知に思いますが、下記にまとめてみます。
発作性の胸痛(絞扼性の疼痛)、胸骨裏面の圧迫感、頻脈、顔面蒼白、冷汗などがあります。
疼痛は左肩、上肢などに放散します。
疼痛は15分以内に治まります。
安静やニトログリセリン舌下錠により痛みは消失します。
労作性狭心症は労作により発作を生じ、労作をやめるとおさまります。
安静狭心症は、安静時また臥床時にも起きる狭心症ですので、重症のことが多いです。

診断については、私たちが行うものではないですが、患者は受けていて、よく知っていますので、勉強しておきましょう。
① 心エコー
狭心症では心臓の動きは正常であり、無動、運動低下を認める場合は心筋梗塞を疑います。

② 心電図
発作時の心内膜下虚血ではST低下を認め、回復時には正常化します。
冠攣縮性の発作時ではST上昇を認めます。
携帯用心電計であるホルダー心電計を用いて24時間の心電図を調べる方法も用いられます。

③ 負荷心電図
運動負荷により、ST低下出現の有無や不整脈の有無を確認します。
a.マスターズの2階段試験
踏み台を上がったり、下がったりさせて心電図をとるもの。
b.トレッドミル法
ランニング・マシーンのような装置を用いる方法。負荷を傾斜と速度で変える。
c.エルゴメーター法
据え付けられた自転車をこぐもので、負荷は抵抗と距離で表される。馬力やワットで表示可能。

④ 冠動脈造影
血管の狭窄部位を確認するもっとも確実な方法です。

 

治療についてです。
① 発作時
安静、ニトログリセリン(亜硝酸製剤)の舌下投与です。首からカプセルを吊っていたら要注意です。

② 薬物療法(発作の予防)
a.心筋酸素需要抑制:β遮断薬
b.冠血流改善:血管拡張薬(亜硝酸薬、カルシウム拮抗薬)
c.冠攣縮予防:カルシウム拮抗薬
d.抗血小板薬:アスピリン

③ 危険因子の除去

④ 内科的血行再建法
冠動脈の狭くなったところにカテーテルを差し込み先端につけたバルーンを膨らませて血管を広げます。
ステントを併用することもあります。

⑤ 外科的治療(冠動脈バイパス術)
死亡率は年間2~7%で、おかされた冠状動脈分枝の多いほど予後が悪いです。

 

続いて心筋梗塞についてです。
冠状血管が血栓により閉塞され、心筋に血液が供給されなくなり、心筋の一部が壊死した病態です。
30分以上の閉塞で壊死します。
運動時にも安静時にも起こります。
男性は女性の2倍以上と多いです。
冠状動脈の粥状硬化の上にできた血栓が最も多いです。

症状は、
① 強い胸痛発作(胸骨裏面、心窩部)
疼痛は左肩、上肢などに放散します。
疼痛は30分以上続きます。
ニトログリセリン舌下錠は無効です。

② 顔面蒼白、冷汗、不安感、悪心、嘔吐

③ 呼吸困難、動悸、発熱など。
発熱は、12~24時間で起こります。
心不全、不整脈、ショックが3大合併症です。
心室細動を起こし、死亡することがあります。

一応、診断も。
① 心電図
梗塞心電図(ST上昇、異常Q波、冠性T波)の出現、不整脈、脚ブロック、期外収縮をみることがあります。

② 血液生化学検査
酵素(CK、GOT、LDH)などが壊死心筋から血液中に逸脱して上昇します。

③ CRP反応陽性、白血球増多、赤沈促進などがみられます。

④ 心エコー
心機能や梗塞部位の判定に有用です。

治療は、
① 発症後、30~40%の患者が1時間以内に死亡していて、初期治療が非常に重要です。

② 不整脈などにただちに対応できる冠動脈疾患集中治療室・CCU(coronaly care unit)での治療が望ましいです。
胸痛:モルヒネなどの麻薬
低酸素血症:酸素吸入
不整脈:キシロカイン、プロカインアミドの投与、AED(電気的除細動)、ペースメーヵー

③ 再灌流の効果があるのは発症後12時間以内です。

④ 回復後
冠動脈再建術(A-Cバイパス術)が適用となることが多いです。
食事は減塩、動物性脂肪とカロリーの制限、血圧管理、肥満の是正、
糖尿病のコントロール、心筋梗塞の重症度に応じた運動などを指導します。
梗塞の面積が広いほど予後は悪いです。
初回発作後1ヶ月以内の死亡率は30~40%といわれ、それを生き延びた患者の1年生存率90%、
5年生存率は76%、10年生存率は55%といわれています。

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