24.椎間板ヘルニアって

連休も終わったので、勉強の再会です。
脊柱の勉強に入っていますが、今回は椎間板ヘルニアです。
椎間板と椎間円板は同じものなのですが、基礎医学と臨床医学では言い方が違うんですよね。
ついでに椎間板の復習をしておきましょう。
椎間板は、中心部の髄核と、周囲の線維輪(線維軟骨)により構成されていました。
その円盤状の組織が、上下2つの椎体間を連結していました。
また、「ヘルニア」は「出る」という意味があります。

さて、椎間板ヘルニアの概要です。
椎間板の退行変性のため、線維輪を破って髄核が外へ押し出されます。
その髄核が、外側方や後方へ隆起状に飛び出すため、神経根や脊髄を圧迫し、
炎症・浮腫を起こすので様々な症状を現します。
下部腰椎に最も多く、次いで頚椎に多いです。胸椎にはほとんどみられません。
最近死体解剖とその人の生存中の記録などから、椎間板ヘルニアがあるからといって
必ず痛みが出るとは限らないといわれています。
脱出したヘルニアは縮小、退縮して自然治癒することもあります。

まずは、腰椎椎間板ヘルニアについてです。
20~40歳代の男性に多いです。
下部腰椎に多いのですが、具体的にはL4・5、L5・S1の順におおいです。
ちょっと難しいですが、病態生理を勉強しましょう。
椎間板は、加齢により含水量が減少するとともに、
コラーゲン量が増加するという生理的変性を生じます。
これに重いものを持ったり、体を捻ったり、墜落するというような外力が加わると
ヘルニアを生じると考えられています。
特に立位前屈姿勢や坐位前屈姿勢で重いものを持つと、椎間板内圧は急に上昇します。
線維輪の抵抗が弱くなったり、断裂すると、強い外力が加わって
ゲル状の髄核が抵抗の弱い部分に向けて脱出します。
脱出や突出は後縦靭帯線維の最も弱い後側方に生ずることが多いです。
この膨隆した線維輪や突出した髄核によって後縦靭帯や線維輪外層が圧迫されて腰痛を生じたり、
神経根圧迫により坐骨神経痛を生じます。
脱出したヘルニアはやがて縮小、退縮して自然治癒することもありますが、
脊柱管内や椎間孔に脱出して神経根を圧迫することもあります。
さらに進行すると、椎間板の高さが減り、線維輪が膨隆し、腰痛を生じます。
また、外層線維輪付着部から骨棘形成が行われ、脊髄、神経根を圧迫すると神経根症状を生じます。

上記により出現する症状は、
① 腰痛、運動制限(特に前屈制限)、棘突起の叩打痛
② 坐骨神経痛、疼痛性側弯
③ 傍脊柱筋の緊張・圧痛
④ 知覚障害、筋力低下など
⑤ 神経根の障害はヘルニアの生じた高位より1椎体下の椎間孔から外に出る神経に生ずることが多いです。

さて、診断です。私たちには、扱えないものもありますが、患者様は受けていますので、勉強しておきましょう。
① X線検査:椎間腔狭小、椎体縁の硬化、骨棘形成がみられる。
② ミエログラフィー:神経根嚢像の異常、造影カラムの椎間板高位での圧排、硬膜内馬尾レリーフの異常などがみられる。
③ CT:神経学的高位診断ができる。
④ MRI:ヘルニアの大きさ・状態。硬膜腔の圧迫状況が直接みられる。
⑤ 徒手検査:
これは、私たちにもできます。しっかり勉強しましょう。

ア.ラセーグ徴候:股・膝関節90°から、膝関節を伸展させると、下肢後側に疼痛が現れる。
イ.SLR(下肢伸展挙上)テスト:膝関節を伸展させたまま、
股関節を屈曲させると70°までに下肢後側に疼痛が現れる。
ウ.ブラガードテスト:膝関節を伸展させたまま、股関節を70°屈曲させ、
さらに足関節を背屈させると、下肢後側に疼痛が現れる。
エ.ボンネットテスト:膝関節を伸展させたまま、股関節を70°屈曲させ、
さらに股関節を内転・内旋させると、下肢後側に疼痛が現れる。
オ.大腿神経伸展テスト:腹臥位、股関節伸展位から骨盤を固定して膝を屈曲させていく。
大腿前面に放散痛があればL2・3間、下腿内側への放散痛ならL3・4間のヘルニアを疑う。
カ.膝蓋腱反射(PTR):L3・4間ヘルニアでは減弱または消失。
キ.アキレス腱反射(ATR):L5・S1間ヘルニアでは減弱または消失。

これらを踏まえて、ヘルニアの高位診断についても勉強します。覚えておくと便利ですよ。

① L3・4間
L4の障害
膝蓋腱反射減弱または消失
大腿四頭筋の筋力低下
下腿内側の知覚障害

② L4・5間
L5の障害
前脛骨筋・長母趾伸筋の筋力低下
下腿外側・足背の知覚障害

③ L5・S1間
S1の障害
アキレス腱反射減弱または消失
長短腓骨筋・下腿三頭筋の筋力低下
足部外縁・足底の知覚障害

最後に治療です。
【保存的治療】
急速な下肢の麻痺や膀胱直腸障害(排尿と排便の失禁や停止)を起こすようなケースを除いて、
原則は保存的治療を優先します。
3ヵ月は保存的治療だけで様子をみる価値があります。

① 急性症状の強い場合はえび姿勢でかためのふとんに安静、臥床させて、冷湿布などを行います。
② 薬物療法:消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などをとうよします。
③ 軟性腰椎コルセットの使用
④ 硬膜外ブロック
⑤ 温熱療法
⑥ 牽引療法:安静の強化、腰椎前弯の除去、スパスムの除去に有効です。
股・膝関節を屈曲したえび姿勢で行います。
⑦ ウイリアムズ体操

【観血的治療】
適応は膀胱直腸障害のある例、足関節の下垂するような高度の麻痺を伴う症例、
保存的治療に抵抗する症例です。
① ラブ法:伝統的な直視下の手術。椎弓の部分切除と変性した髄核の切除を行います。
② 脊椎固定術:椎体前方から侵入して椎間板を切除し腸骨から採った骨片で椎体を固定します。
③ 経皮的髄核摘出術:X線イメージの透視下に椎間板に刺入した管を介して髄核を摘出します。
④ レーザー椎間板蒸散法:椎間板内に刺入した内視鏡下にYAGレーザーで髄核を蒸散させて取り除く方法です。
成功率80%程度です。手術の侵襲は少ないです。

次は、頚椎椎間板ヘルニアについてです。
腰椎に比べ発症率は1/10程度です。
C5・6、C6・7、C4・5の順に好発します。

症状についてです。
① 頚痛と運動制限がみられ、痛みは咳などで増強する。
② 根症状:肩から手へ放散する上肢の痛み・しびれ・感覚鈍麻・脱力感・筋萎縮・
筋力低下・腱反射の低下または消失がみられる。
③ 脊髄圧迫症状(ミエロパチー):痙性不全対麻痺・病変部位以下の感覚障害・膀胱直腸障害がみられる。

診断についてです。
① X線検査:椎間腔の狭小化。
② MRI:ヘルニアの大きさ、椎間腔、神経根の圧迫状況。
③ CT、ミエログラフィー(脊髄造影):ヘルニアの大きさ、神経根圧迫状況。最近ではMRIの方を多用する。
④ 徒手検査:

これは覚えておきましょう。
ア.スパーリングテスト:頭部を患側に曲げ、頭を長軸方向へ圧を加えた時、
患側の頚・肩・腕に疼痛を誘発したり増強すれば陽性。
イ.ジャクソンテスト:頭部をできるだけ背屈して、頭を長軸方向へ圧迫した時、
患側の頚・肩・腕に疼痛を誘発したり増強すれば陽性。
ウ.イートンテスト:頭部を健側に屈して、頭部と健側の肩を固定し、患側上肢を下方に牽引した時、
患側の頚・肩・ 腕に疼痛の誘発・増強をみれば陽性。

ヘルニアの高位診断についても覚えておけば便利です。

① C4・5間
C5の障害
上腕二頭筋腱反射減弱または消失
三角筋・上腕二頭筋の筋力低下
上腕外側の知覚障害

② C5・6間
C6の障害
腕橈骨筋腱反射減弱または消失
上腕二頭筋・腕橈骨筋・手根伸筋群の筋力低下
前腕外側の知覚障害

③ C6・7間
C7の障害
上腕三頭筋腱反射減弱または消失
上腕三頭筋・手根屈筋群・手指伸筋群の筋力低下
中指の知覚障害

④ C7・T1間
C8の障害
手固有筋・手指屈筋群の筋力低下
前腕内側の知覚障害
主な頚神経のデルマトーム(皮膚支配領域)
これも覚えておくと、何かと便利です。
C4:肩上部
C5:上腕外側
C6:前腕外側
C7:中指
C8:前腕内側
T1:上腕内側

最後に治療についてです。
【保存的療法】
症状が頚部、上肢に限局しているばあい積極的に行います。
① 局所の安静と固定:フェルト、綿包帯などによる首の固定。ポリエチレン性の頚椎カラーや頚椎固定装具。
② 牽引療法:斜面台や坐位でグリソン係蹄により牽引を行います。
③ 薬物療法:鎮痛剤、筋弛緩剤などを用います。

【観血的療法】
保存治療が無効、下肢の麻痺が持続する場合に行います。
① 脊椎固定術:病変椎間板を切除して、上下椎間に骨移植を行います。
② ラブ法:前方からヘルニア摘出を行います。

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