28.バイタルサインって
私たちが行っている訪問マッサージ、対象となる患者様は、様々な症状のために寝たきりとなっておられます。
もちろん、その原因があるのですが、基礎疾患は多種多様です。
しかも一人で多数の疾患を持っておられることも少なくありません。
訪問した際、顔色をうかがいながら、前回の施術後の変化や、当日の体調などを尋ねると思います。
その中には「睡眠、食思、便通」も含まれていると思います。
また、客観的な指標としては「バイタルサイン(生命徴候)」が知られています。
患者様の急激な体調の変化の際に重要な指標となります。
病院では、周りに看護師、さらには医師が控えていてくれます。
訪問マッサージでは基本的には一人で施術を行います。
ですので、施術者が自分で判断をしなければなりません。
その際の参考になればと思い、下記にバイタルサインの4つの項目「呼吸」「脈拍」「体温」「血圧」について紹介します。
《バイタルサイン》
【呼吸】
① 呼吸数
正常呼吸数:14~18回/分(16~20回/分とする本も多い)
頻呼吸:24/分以上
心不全、肺炎、髄膜炎、尿毒症など。発熱時、ことに小児でも頻呼吸となる。
徐呼吸:12/分以下
脳圧亢進、気管支の閉塞、モルヒネ中毒など。
無呼吸:呼吸が一過性に呼息の状態で止まってしまうもの。
百日咳、小児の痙攣、癲癇発作、テタニー、ヒステリーなど
② 呼吸困難
多呼吸:呼吸数・深さが増したもの。
生理的:運動後
病的:インフルエンザなどの高熱時、ヒステリーの過換気症候群
吸気性呼吸困難:吸気延長
ジフテリア、喉頭炎・腫瘤、甲状腺腫大、声門痙攣、気道内異物など
呼気性呼吸困難:呼気延長
気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫などの閉塞性呼吸器疾患
混合性呼吸困難
肺炎、肺うっ血、滲出性胸膜炎など
チェーンストークス呼吸:無呼吸と過呼吸を繰り返すもの。
脳卒中、脳腫瘍、尿毒症など
ビオー呼吸:無呼吸から突如過呼吸に移り、これを繰り返すもの。チェーンストークス呼吸より間隔が不規則。
脳炎、髄膜炎、脳外傷など、脳圧亢進がある時
クスマウル大呼吸:深い大きな呼吸が連続するもの。
糖尿病性アシドーシス
あえぎ呼吸(下顎呼吸):口をぱくぱくし、あえいでいるように見える呼吸で、
呼吸数は1分間に10回以下で、リズムも不規則。死の間近なことを示す。
起坐呼吸:呼吸困難のため寝ていることができず、座位をとるもの。
心不全、心臓喘息、気管支喘息
③ 換気障害の検査法
肺活量:最大深吸気後、最大呼出できる空気量。
正常値(成人):男子3~3.5リットル、女子2.5~3リットル
1秒量:肺活量のうち、最初の1秒に呼出する空気量。
1秒率:肺活量にたいする1秒量の割り合い。
正常値:70%以上
【脈拍】
触診部位:動脈が体表に近い位置を走行し、かつ骨などの硬い組織に対してその動脈を圧迫しうるような部位で行う。
例:橈骨動脈、上腕動脈、頚動脈、膝窩動脈、大腿動脈、足背動脈など
① 脈拍数
正常脈拍数:60~80回/分
呼吸数/脈拍数比:1:3~4
日内変動など:睡眠中は少なく、運動・食事・精神的緊張などで増加
頻脈:100回/分以上
発熱時(1℃上昇で8~10/分増加)、貧血、心不全、心筋炎、心臓神経症、
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、出血後、全身衰弱時など
徐脈:50~60回/分以下
脳圧亢進症(脳腫瘍・脳膜炎・脳出血など)、甲状腺機能低下症(粘液水腫など)、黄疸、房室ブロックなど
アダムス・ストークス症候群:房室ブロックによる高度の徐脈により、脳が虚血を起こし、痙攣、失神などをみるもの
② 調律(リズム)
不整脈:拍動の間隔が一定でないもの
呼吸性不整脈(洞性不整脈):吸気時に小さく速く、呼気時に大きくゆっくりとなる。
期外収縮性不整脈:心拍が、その起こるべき時期よりも早期に出現するもの。脈拍は欠滞して触れないことがある。
心内膜炎、心筋炎、その他健康者でも老人、睡眠不足、著しい疲労、タバコ・コーヒーの乱用など
恒久性不整脈(絶対性不整脈):大小の脈拍が全く無秩序に現れるもの。
心房細動、心房粗動、一過性として、リウマチ性心疾患(僧帽弁口狭窄)、高血圧症、冠状動脈硬化症、心筋変性など
交互脈:強い脈(大脈)と弱い脈(小脈)が規則正しく交互に現れるもの。
左心室不全の最初の徴候。高血圧を伴う心臓病、心筋梗塞、大動脈弁閉鎖不全、萎縮腎など
奇脈(パラドックス脈):吸息時弱くなり、呼息時普通に戻る。
心嚢疾患、喘息、肺気腫など
③ 大きさ:脈波の振幅
大脈:心臓肥大(大動脈弁閉鎖不全症)、脚気、甲状腺機能亢進症、高熱時、高血圧症など
小脈:大動脈弁狭窄症、心臓衰弱、貧血など
④ 緊張度:硬さ
硬脈:動脈硬化症、萎縮腎、鉛中毒など
軟脈:低血圧症、心臓衰弱、ショック、貧血など
⑤ 遅速:動脈管が拡張・収縮する速度
速脈:一般に大脈
遅脈:一般に小脈
【体温】
体温測定部位:腋窩、口腔内、直腸内など
正常腋窩温:36℃台
口腔温:腋窩温+0.5℃
直腸温:腋窩温+1℃
日内変動:午前2~4時ごろ最低、午後2~6時ごろ最高
① 熱高
発熱:37℃以上
微熱:37℃台
中等熱:38℃台
高熱:39℃以上
過高熱:41.5℃以上
低体温:36℃未満
② 熱型:体温の変化を経過によってグラフにあらわしたもの
稽留熱:1日の体温の差が、1℃以内の持続する高熱
腸チフス、大葉性肺炎、髄膜炎、粟粒結核
弛張熱:1日の温度差が1℃以上で、37℃以下にならないもの
種々の化膿性疾患、敗血症、腸チフスの解熱期、種々のウイルス感染症、悪性腫瘍、肝膿瘍、膠原病
間歇熱:1日の温度差が1℃以上で、37℃以下になるもの
マラリアの発作期、弛張熱と同じ疾患
波状熱(再発熱):有熱期と無熱期が不規則に繰り返すもの
ブルセラ症、マラリア、ホジキン病、腎結石、胆道結石
周期熱:規則正しい周期で発熱を繰り返すもの
マラリア(三日熱、四日熱)、回帰熱
③ 解熱期:熱の下がる時期。
分利:高熱が急速に下降する場合
大葉性肺炎の治癒期、 抗炎症剤・抗生物質投与
渙散:徐々に熱が下降し数日で平熱になる場合
大多数の 熱性疾患
【血圧】
血圧:血液が脈管壁に及ぼす血管内圧
最高血圧(収縮期血圧):心臓の収縮期に最高となる血管内圧
最低血圧(拡張期血圧):心臓の拡張期に最低となる血管内圧
脈圧:最高血圧と最低血圧の差。最高血圧・最低血圧・脈圧の比は3:2:1が望ましい。
① 血圧測定の注意事項
血圧は運動・精神的興奮・食事などの影響を受けやすい。なるべく15分以上、安静を保った後で測定する。
患者は、座位または臥位で楽な姿勢をとらせ、前腕全体を心臓の高さでなめらかな表面におく。
② 血圧測定法
a.触診法
最高血圧:橈骨動脈の脈拍を触れはじめるときの圧。
※ 触診法で測定される最高血圧は聴診法のものより低い。
※ 触診法では最低血圧を測定することができない。
b.聴診法
上腕動脈の拍動に聴診器を当てる。
最高血圧(スワン第1点):聞こえ始める点
スワン第4点:突然音が弱くなる点
最低血圧(スワン第5点):音が完全に消失する点
※ 大動脈弁閉鎖不全症、重症貧血、甲状腺機能亢進症などでは圧が0になっても音が聴かれることがある。
この際は第4点の値も記載しておく。
③ 血圧の異常
2000日本高血圧ガイドライン(JSH)
分類 収縮期血圧 拡張期血圧
至適血圧 120㎜Hg未満 かつ 80㎜Hg未満
正常血圧 130㎜Hg未満 かつ 85㎜Hg未満
正常高値血圧 130~139㎜Hg または 85~89㎜Hg
軽症高血圧 140~159㎜Hg または 90~99㎜Hg
中等症高血圧 160~179㎜Hg または 100~109㎜Hg
重症高血圧 180㎜Hg以上 または 110㎜Hg以上
④ 高血圧の型
a.最高血圧が上昇するもの
大動脈弁閉鎖不全症、大動脈硬化症、甲状腺機能亢進症
b.最高血圧、最低血圧ともに上昇するもの
腎性高血圧、本態性高血圧
c.最低血圧が著明に上昇するもの
悪性高血圧、うっ血性心不全
⑤ 経過による分類
a.良性高血圧:20年以上にわたり緩徐に進行するもの
本態性高血圧症など
b.悪性高血圧:急速に進行し、腎不全等で死亡する恐れもあるもの
症候性高血圧に多い
⑥ 低血圧
低血圧:最高血圧が100㎜Hg以下のもの
体質性低血圧:低血圧の基準を満たしても特に愁訴のないもの
起立性低血圧症:臥位から立位に体位を変換したとき、最高血圧が21㎜Hg以上低下するもの
シャイ・ドレーガー症候群、糖尿病など
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